【労働者災害補償保険法】賃金支払うと待期完成せず?
2019/07/12
■ 業務上災害の3日間・・・被災初日はカットしない

【問】
当社では業務上の事故が起きた場合、慣例として初日の賃金カットはしない取扱いとなっています。

新しく安全担当となった部長さんから、「初日に賃金を支払ってしまうと、待期期間の完成に影響しないか(遅れるのではないか)」という疑義が出されました。

これまで、労災申請で問題が生じた記憶はないのですが、どのように説明すると良いでしょうか。

● 6割以上出てもカウント

【答】

労災保険の保険給付は、「労基法で定める災害補償の事由が生じた場合」、労働者等の請求に基づいて行われます(労災法12条の8第2項)。

しかし、休業補償給付に関しては、「傷病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第4日目から支給する」という条件が付されています(同14条)。

この3日間を待期期間と呼び、その間の補償義務(休業補償の支払い)は事業主が負うとされています(労基法76条)。

待期期間完成の要件を整理すると、「療養のために労働できず、労働不能であるが故に賃金も受けられない」日が、累計3日に達した場合と読めます(4日目から休業補償を支給)。

文字どおり解釈すると、新任の部長さんのおっしやるように、「賃金を受けられる日」があると、待期期間の完成に影響が及びそうな気もします。

話の前提として、「賃金を受けない日」の定義から確認しましょう。

一部受領の日については次の条件を満たすときに、「賃金を受けない日」とみなされます(労災法コンメンタール)。

@ 全部労働不能であって、平均賃金の60%未満の金額しか受けない日

A 一部労働不能であって、その労働不能の時間について全く賃金を受けないか、「平均賃金と実労働時間に対する賃金の差額の60%未満の金額」しか受けない日

お尋ねのケースでは、被災初日は100%相当の金額が支払われています。

しかし、待期期間中は「使用者が平均賃金の60%以上の金額を支払った場合であっても、特別の事情がない限り労基法に基づく休業補償が行われたもの」として取り扱われます(昭40.07.31基発901号)。

つまり、法定補償を超える分も含め、賃金ではなく休業補償とみなされるので、待期期間に影響は及びません。

【労働基準法】固定残業代も上昇?
2019/07/12
■ 基本給を毎年賃上げ

【問】

近年、最低賃金が大幅に上昇を続けているのを受けて、毎年基本給の賃上げを行っています。

当社では従業員に定額の固定残業代を支払っており、こちらの金額も徐々に上げていますが、最近の業績からしてなかなか苦しいところです。

それでもやはり、基本給の上昇に伴って金額を上げなければ法律違反になるのでしようか。

● 法定以上なら違法ではない

【答】

定額の固定残業代を採用している企業等でも、使用者は想定した毎月の時間外労働の時間数と、基本給等のうち「割増賃金の基礎部分」から算出した時間当たりの賃金を考慮して額を決めることも多いと思われます。

実際の残業が想定より長時間発生した場合、当該残業時間分の賃金と法定労働時間を超えた分について2割5分の割増賃金(労基法37条)を足した金額が固定残業代を超えたときは、追加の賃金を支払わないと労基法24条違反となります。

仮に基本給を上げる一方で固定残業代を据え置く場合、変更後の基礎部分の額と法定の割増賃金率に基づき計算した残業代が固定残業代を超えなければ、違法にはなりません。

しかし1時間当たりの基礎部分の賃金が上がる分、想定した残業の時間数が減少する計算になるので、労働の態様が従前どおりなら合理性に欠けると判断されることもあり得るでしょう。

【均等法】セクハラ相談誰に
2019/04/12
■ 何か資格あればベター

【問】

セクハラやマタハラの関係で、対応窓口の体制を見直すことになりました。

担当者は、管理監督者等のほかに、何か資格を有している者が良いという意見が出ました。法律条文でそれらしい規定は見当たりませんが、どうしたものでしょうか。

● 推進責任者選任も一考

【答】

民間の資格はともかくとして、厚生労働省では、均等法に基づく資格者として、各事業所に男女雇用機会均等推進責任者の選任をお願いしています(厚労省「男女雇用機会均等法のあらまし」など)。

その職務のひとつに、「均等法に定める性差別の禁止、職場におけるセクハラの防止および母性健康管理に関すること」の進言、助言を事業主に対して行うとあります。

選任に当たって資格は必要とせず、「人事労務管理の方針の決定に携わる方を選任するようおすすめ」している(都道府県労働局)ということです。

労働局に選任・変更届を提出すると、各種情報提供が受けられるとしています。

均等法の改正が予定されており、男女雇用機会均等推進者の選任が努力義務になる予定です。

女性活躍推進法に基づくプラチナえるぼし(仮称)の認定には選任が要件とされています。

緊急時の出勤中に被災したら
2019/04/12
■ 年休取得日に呼出し外出先から取引先へ移動

【問】

遠方の取引先から、突然のトラブル対応要請がありました。

当日、担当者は年休を取って実家に戻っていましたが、年休取消しの合意を得て、実家から直行してもらいました。

この場合、出発地が会社でもなく、自宅でもありません。

取引先への移動中に事故にあったと仮定して、通勤災害等の保護を受けられるのでしょうか。

● 出張同様「業務上」と扱う

【答】

ご質問にある方は、当日、会社を経由せずに、直接、取引先に向かっています。

外勤者についてですが、「自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所」であるという解釈が示されています(平18.03.31基発0331042号)。

つまり、取引先に着くまでは「通勤」に当たるという解釈も考えられるところですが、出発地が「自宅」でない点がネックになります。

一方、緊急対応で出勤したという点に着目すると、別の解釈例規(昭24.01.19基収3375号)が参考になります。

「鉄道の保線工夫が、鉄道沿線に突然事故があったため、自宅等から使用者の呼出しを受けて現場に駆け付ける途上は業務遂行中とみるか」という問いに対し、イエスという回答が示されています。

通常なら、自宅から用務先への移動は「通勤」に該当します。

しかし、直ちに業務遂行のために移動するよう命じられた場合、その時点から「労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態」に入ります。

ですから、移動経路が「たまたま通勤経路」と同一だったとしても、その間の事故は業務上災害として取り扱われるという理解です。

出発地が「自宅等」と記されている分、解釈の余地も広がるようです。

同様の事例として、出張が挙げられます。

出張とは、「事業主の包括的・個別的な命令により、特定の用務を果たすために、通常の勤務地を離れた用務地へ赴いてから、用務を果たして戻るまでの一連の過程」を指します(労災法コンメンタール)。

交通手段で移動中、あるいは宿泊中の事故も、私的行為等で業務遂行性が失われなければ、業務上災害に該当します。

ご質問の事案についても、会社の命令を受けた後の行動は「事業主の包括的な命令の支配下で行ったもの」と解するのが相当でしょう。

【健康保険法】産休の届出を事後変更?
2019/02/26
■ 早産のため手続き必要に

【問】

友人と話をした際、ちょっと気になる話を耳にしました。

彼女は早産だったのですが、会社の総務は「産休開始日の変更」の届出を提出したというのです。

私も総務部の所属ですが、そういった手続きを採った記憶がありません。

後から届出漏れが問題になるようなケースがあるのでしょうか。

● 出産日ずれ終了日が移動・・・保険料免除に影響し得る

【答】

社会保険の被保険者が産休に入った場合、事業主の申出により社会保険料の免除を受けることができます(健保法159条の3等)。

事業主は、産前産後休業取得者申出書を日本年金機構等に提出します(健保則135条の2)。申出書の記載事項の中には、次のような事項も含まれています。

@ 産前産後休業の開始日

A 出産予定日

B 多胎妊娠のときはその旨

C 出産日・氏名・年月日(出産後に提出の場合)

D 産前産後休業の終了予定日

申出書は「産前産後休業をしている」間に提出しますが、出産前と後の2とおりが考えられます。

出産前に提出した場合、出産予定日と実際の出産日が異なる可能性があります。

異なる場合には、産前産後休業の開始日・終了日にも影響が及びます。

社会保険料の免除は、「出産以前42日間(多胎妊娠は98日)から出産後56日までの間において労務に服さない期間」が対象です。

通常、被保険者は「出産予定日」を基準として産休に入り、実際の出産日が予定と異なっても休業開始日は変わりません。

しかし休業終了日は変動し、保険料免除の終了月が変わる可能性があります。

この場合、出産前に出す申出書と同じ様式を用いて変更事項の届出を行う必要があります。

一方、申出書を出産後に提出したときは、終了日を早める等の特別の事情がない限り、休業期間の変更は生じません。

貴社では慣例的に出産後に手続きしていたか、または事前に届け出たが、予定日どおりの出産で変更が不要だった可能性があります。

【労働基準法】就業条件明示との統一は
2019/02/26
■ 労働条件通知も別途必要

【問】

当社は派遣元ですが、労基法の労働条件通知について質問があります。

平成31年4月から、メールによる通知も可能になると聞きます。

この機会に、派遣法の就業条件の明示と統一したいと考えています。

両者の取扱いは、基本的に同じと考えてよいのでしょうか。

● 法改正後は兼用もできる・・・共にメールの利用可能に

【答】

使用者は、労働契約の締結に際し、労働条件を明示する義務を負います。

「労働条件」のうち、次の事項に関しては、「厚生労働省令で定める方法」による必要があります(労基法15条1項)。

@ 労働契約の期間

A 有期契約を更新する場合の基準

B 就業の場所・従事すべき業務

C 始業・終業時刻、時間外の有無、休憩、休暇等

D 賃金の決定、計算および支払いの方法、締切りおよび支払いの時期

E 退職

「厚生労働省令で定める方法」について、改正前の労基則5条3項では「書面の交付」としていました。

しかし、働き方改革関連法の整備により、平成31年4月1日から上記の規定が変更されます。

改正後も厂書面の交付」が原則ですが、本人が希望したときは次のいずれかによることができます。

T ファクシミリ

U 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信の送信の方法(労働者が電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)

一方、派遣法の就業条件の明示は、従来から、書面のほか、「ファクシミリまたは電子メールの送信」によることが認められていました(派遣則26条)。

今回の労基法改正に合わせ、派遣則上の通知方法についても、「電子メール」を「電子メールその他の受信をする者を特定し…(中略)…書面を作成することができるものに限る」という表現に統一する改正が実施されています(平30.12.19厚労省令145号)。

ですから、両者の考え方は基本的に一致すると考えてよいでしょう。

労基法に基づく労働条件の明示と派遣法による就業条件の明示を同時に行うときは、「明示する事項が一致する範囲内で両方の明示を兼ねて差し支えない」とされています。

ですから、改正則の施行後は、メール等によるときも、両者の兼用フォームを使用することが可能となります。

なお、平成32年4月1日施行の改正派遣法により、基本的に、労基法の「労働条件の明示」と派遣法の「待遇に関する説明 (雇入れ時の通知。新設規定)」をセットで実施する形に変わる予定です。

【労働基準法】年休の取得希望いつ確認
2019/02/26
■ 5日未満は時季指定・・・罰則付き規定で不安あり

【問】

平成31年度から始まる「使用者による年休の時季指定」について質問があります。

当社では、年休の取得率が高く、正社員等で5日の年休消化をしていないケースは皆無に近い状況です。

この場合も、どこかのタイミングで「従業員の取得希望等を確認」しておいた方が良いのでしょうか。

罰則付きの規定だけに、ちょっと不安な面もあります。

● 四半期や月別が適当

【答】

使用者は、年休(付与日数10日以上の労働者に限る)のうち5日について、年休付与日から1年以内に時季指定して、取得させる必要があります(労基法39条7項)。

違反すると30万円以下の罰金の対象になります120条)。

時季を定める際には、本人の意見を聴く義務があり(労基則24条の6第1項)、本人の意見を尊重するよう努めなければなりません(同条2項)。

時季指定(および意見聴取)のタイミングがいつになるかですが、解釈例規では「必ずしも期首に限られず、途中に行うことも可能」としています(平30.12.28基発1228第15号)。

新しい年休制度に関する厚労省パンフでは、年休取得計画表の作成時期について、年度別のほか、4半期別、月別などの例を示しています。

指定義務が課されている5日からは、「労働者が自ら請求・取得した年休日数や、計画的付与による年休日数を控除」することができます(労基法39条8項)。

一方、「個人的事由による取得のために労働者の時季指定分を留保する観点から、5日を超える日数を指定することはできない」と解されています(前掲解釈例規)。

ですから、たとえば半年後に「第1回目」の時季指定をする場合、会社は、自己取得・計画年休により既に5日の年休を消化した人に対して時季指定する権利を有さないことになります。

残った人(5日に満たない人)に限って、法の手続きを採れば足ります。

チェックの時期を遅くすれば、それだけ対象者は減ると予想されます。

しかし、残りの日数が少なくなれば、年休スケジュールの作成も「窮屈に」なります。

使用者の義務は「時季指定しただけでは足りず、実際に取得させなければ法違反を問われる」(パンフ)ので、注意が必要でしょう。

【労働基準法】社長の息子に減給制限なし?
2019/02/21
■ 後継者候補がパワハラ・・・役員相当の罰金科したい

【問】

将来的な後継者候補として入社し部長職についた社長の息子さんが、早く成果を出したいという焦りからか、パワハラ事件を起こしてしまいました。

会議の結果、減給処分が妥当という結論に達しましたが、その金額が問題となっています。激怒した現社長は「親族なんだから、労基法の制限は受けないはず。役員相当の減給を科すべき」と主張します。

そういう解釈が成り立つのでしょうか。

● 同居でも「労働者性」注意

【答】

まず、減給に関する制限から確認しましょう。

減給は、「1回の額が平均賃金の1日の半分を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と定められています(労基法91条)。

労基法の対象である労働者であれば、この範囲内でのみ減給が可能となります。

金額に不満な社長さんは、そこで「息子は親族だから」という論拠を持ち出して、社内的に「示しをつけたい」とお考えのようです。

確かに、労基法では「同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人には適用しない」と規定しています(労基法116条2項)。

しかし、だからといって社長さんの主張が正しいとも限りません。

「同居の親族」であることが要件とされているので、息子さんが独立して一家を構えていれば、そもそも本条の対象になりません。

同居とは、「世帯たる実態があるか否か、すなわち居住および生計を一にしているか否か」で判断されます。

同居している場合ですが、条文上は「同居の親族のみ」を使用する事業が適用除外になると読めます。

貴社では、質問者も含め親族以外も雇用されているようです。

こうしたケースでも、同居の親族自体は「原則として本法の労働者でない」(労基法の適用はない)と解されます(労基法コンメンタール)が、例外的に次の条件を満たすときは労働者として取り扱われます(昭54.04.02基発153号)。

@ 業務を行うにつき、事業者の指揮命令に従っていることが明白である

A 労働時間、賃金の決定・支払等についても、就業規則等の定めるところにより、他の労働者と同様に管理されている

ご質問の例も、以上の判断基準に従って、116条2項の適用があるか否か、慎重に判断する必要があります。

【健康保険法】30万円で保険料計算か
2019/02/21
■ 任意継続の標準報酬月額

【問】

任意継続被保険者の標準報酬月額の上限が、4月に28万円から30万円に引き上げられるといいます。

4月より前に退職して、28万円の上限が適用されているとき、保険料にも影響が及ぶのでしょうか。

● 4月以降負担増も

【答】

保険料は、標準報酬月額等に保険料率を乗じて算出します。

任継の標準報酬月額は、退職して被保険者資格を喪失したときの標準報酬月額と、前年9月30日の全被保険者の同月の標準報酬月額の平均(28万円)を比べて、少ない額を用います(健保法47条)。

退職時の報酬がたとえば50万円でも、28万円で計算されます。

任継の保険料が変動するケースとして、任継加入中に介護保険第2号被保険者に該当もしくは該当しなくなった場合、都道府県別の保険料率等が変更された場合、保険料率の異なる都道府県へ転出した場合があります。

さらに、平均標準報酬が改定される際に、全任意継続被保険者について見直しを行い必要に応じ改定(昭51.06.05保発29号)するとしています。

都道府県料率等の変更は考えずに、現在の東京都における28万円と30万円の保険料を比べると、月1,980円(介護保険料込みは、月2,294円)の差があります。

【雇用保険法】追加給付となるのは
2019/02/21
■ 毎月勤労統計に不備

【問】

政府の統計にミスがあり、雇用保険等の追加給付が話題になっていますが、どの給付が対象なのでしょうか。

● 基本手当等や一部の助成金

【答】

長年にわたって調査方法に不備があったことがこの度指摘されたのが「毎月勤労統計調査」ですが、この調査によるデータを基に年代別の「平均給与額」を算出し、基本手当等の支給額の算定等に使われています。

基本手当は、離職者本人に支払われた6ヵ月分の賃金の総額を180で除した「賃金日額」を基に金額を算定します(雇保法16条、17条)。

この額は毎月勤労統計調査の金額とは直接関連しませんが、この額の多寡によって区分がされており、賃金日額から一定割合で減額した基本手当の額を算出する際に、当該調査から出された数値を用いる場合があります。

年齢階層によっても算出の式が異なり、最低限度額・最高限度額も設定されていますが、ここでも調査の数値が参酌されています。

それらのデータが不適切だった結果、給付額が少なくなった人に対して追加給付の必要が生じてきたわけです。

毎月勤労統計調査の影響で追加支給が生じている可能性があるのは、雇用保険では他に再就職手当や育児・介護の休業給付等で、一定期間内に事業主に支給された雇用調整助成金も一部対象になっています。

前ページTOPページ次ページHOMEページ